修論・博論のテーマ設定について
How do I decide research theme?

個人研究を進めるにあたっては、直感的に興味がある(が、うまく言葉にできない)ことを掘り下げ、データを用いて客観的・理論的に説明できるようになることを目指します。指導教員は研究テーマのきっかけづくりはしますが、テーマを一方的に与えることはしません。実体験に裏打ちされた興味や疑問をもち、それを自分自身のために研究として深めたい意思をもった方を歓迎します。
このページには当研究室で現在取り組んでいる研究テーマを5つに分けて示していますが、それらに限らず、都市、ランドスケープ、自然環境などに関わる個性的、挑戦的なテーマを歓迎します。興味をお持ちの方、ぜひ、一度ゼミ見学や指導教員との面談にお越しください。所属メンバーの現在のテーマ(こちら)も参考にしてください。

ランドスケープ計画
Landscape Planning
生態・社会・経済が調和した健全な都市環境の形成に向けて

 
 ランドスケープ計画の目的は、その地域の自然環境や生態系を読み解き、都市設計に活かすことで、生態・社会・経済が調和した持続可能な都市形成に資することにあります。今後、人口減少を本格的に迎える日本の都市では、その備えとして、市街地を計画的に小さくし、インフラの維持コストや環境負荷を低減する「コンパクトシティ」政策が主流となっています。都市を小さくするということは、その分自然的な土地利用が増えるということでもあり、コンパクトシティ政策とランドスケープ計画との連動が強く求められます。研究のアプローチは様々あり得ますが、いずれも20年30年先の未来を見据え、将来必要とされる計画概念からバックキャスティングし、いますべきことを考えることが基本となります。
 

柏キャンパス近くの大堀川上流地域。現在は暗渠になっており川を認識することは難しい。しかし内水氾濫による浸水箇所(×)の分布を見てみると、相対的に標高が低く傾斜が緩い(=水が留まりやすい)地域に集中しており、水文に規定されていることがよく分かる。 人口減少下において、こうした地域の都市計画はどのあるべきだろうか?
(左:Tokyo Terrain5mDEM陰影段彩図、右:Google Earth。浸水箇所は流山市ホームページより)

 

生態系の機能を活かした都市計画に関する研究
Ecosystem-based urban design / planning

  • コンパクトシティとグリーンインフラの概念統合に関する理論研究
  • 土地条件図を用いた生態系復元シナリオと都市経営上の評価

 

人口減少を見越した緑地・オープンスペースの現況評価
Open space management in the depopulation period

  • 郊外住宅地空閑地の利用実態や暫定性の解明
  • 都市の野生動物の分布と緑地との関係
  • アーバンフリンジ住宅地の再編シナリオと事業性の評価

 

人と自然との関わりを捉えた新しい計画策定手法
New planning scheme with human-nature relation

  • SNSによって捉えらえた「自然への情動」分布図の作成
  • 緑地への物理的近さと認知との関係解明と計画への展開
  • 自然への関わりの程度と「都市の自然」に対する認知との関係

アーバンフォレストリー
Urban Forestry
都市の樹木と樹林地を「森」として統合的に捉える

 
 アーバンフォレストリーは北米・欧州を中心に1990年代から用いられるようになってきた計画概念で、都市におけるあらゆる樹木と、その集合体としての樹林地(都市林)をひとつの森(生態系)として一体的に計画・管理し、都市設計に活かすことを狙いとするものです。日本では街路樹、公園の植栽木とで管理責任が異なり、また剪定枝も排出者により一般廃棄物か産業廃棄物かに区分されるなどの理由から、「一体的な計画・管理」に対する知見は不足しています。しかし、樹木の老齢化により都市部の樹木・樹林地の管理・更新が課題となる中、対症療法的にではなく、明確な構想にもとづき一体的な計画・管理を進めることが求められており、今後、注目される計画概念になると考えています。都市の樹木や樹林地に関わる研究はすべてアーバンフォレストリーの範疇で、日本独特の鎮守の森や里山などを対象に含み、本研究室でも多角的に研究に取り組んでいます。 

 

東京都渋谷区の明治神宮内苑の森。1920年に造営され、2020年に鎮座100年を迎える。周りの状況は一世紀で大きく変化し、参拝者も訪日外国人観光客を含めて多様化している。100年前に「森厳幽邃」な趣きを目指して造営された都市の森は、現在の参拝者にどのような心理的印象をもたらしているのだろうか?

 

都市の樹木・樹林地の一体的管理・計画に関する研究
Integrative management and planning of urban forest

  • 高解像度リモセン画像による都市の樹木・樹林地の抽出と管理状況の把握
  • 都市の樹木・樹林地の社会的・生態的・経済的役割に関する文献レビュー
  • 剪定枝の発生量と処理に関する実態と一体的活用の可能性

里山保全やバイオマス利用に関する研究
Conservation of satoyama woods

  • 市民による里山保全による健康促進効果
  • 里山管理シナリオとそれに伴うバイオマス発生量

都市住民や利用者による都市の樹木・樹林地の認知に関する研究
Humans perception of urban forest

  • 鎮守の森が参拝者にもたらす印象の外国人/日本人による差異
  • 外国産街路樹に対する地元住民の認知

植栽木の診断や多様性に関する研究
Evaluation of trees in man-made environment

  • 街路樹や施設内植栽木の成長量・健全度の評価と立地環境の影響
  • 郊外住宅地内の庭木の樹種選定の年代別傾向と多様性評価

 

都市農業
Urban Agriculture
日本から発信するランドスケープ・アーバニズム

 
 都市農地は様々な生態系サービスを提供しており、都市のグリーンインフラの一部として重要な存在です。常に都市的土地利用と競合しており転用のリスクを抱えていますが、通常の緑地とは異なり食料生産にも資することから、フードシステムの構成要素となっており、緑地の中でも独特な位置づけにあります。日本では、数世紀続く農家の存在により現在でも多くの農地が都市に残され、高品質な農作物が生産され、その多くは直売所などを通じてローカルに消費されています。こうした例は世界的にみても非常に珍しく、昨今では各国の専門家や実務者から注目が集まっています。日本ならではのユニークな都市農業の仕組みを都市設計やまちづくりに活かすことで、日本ならではのランドスケープ・アーバニズム(農のアーバニズム)の発信も可能と思います。
 

東京都練馬区白子川源流付近。緑地の大部分が農地や屋敷林。民有地であるがゆえにその行く末は所有者に意向に依るが、その公益性は高く、保全に向けた枠組みの再構築が必要である。
(国土地理院空中写真を加工)

 

多面的機能の整理・評価やフードシステムに関する研究
Multiple functions and food system 

  • 都市農業に関連した諸活動の網羅的把握と多面的機能との関連整理
  • 農地、屋敷林、庭地など農家が維持する緑地空間における植物種の多様性
  • 都市農地の食料生産量と栄養源としての評価
  • 都心部の屋上農園がオフィスワーカーの健康や創造性に果たす役割

農のあるライフスタイルに関する研究
Agricultural lifestyles

  • 農地や農家への接触度と農への志向との関係
  • 半農半X実践者のライフログ分析
  • ライフスタイルの映像化とその評価

制度や事業に関する研究
Institutional systems and spatial planning

  • 都市公園法にもとづく分区園の空間利用と運営実態
  • 大都市圏郊外都市における生産緑地指定に関わる所有者の意図

文化的景観
Cultural Landscape
土地に対する営みの表象としてランドスケープを捉える

 
 文化的景観はその地域に住む人の土地に対する営みの積層が表出したものだといえ、景観の原型がよく留まっているものについては、重要文化的景観に指定され保全が図られています。緑地保全の理想としては、地域の社会経済システムに緑地が内部化され、その土地の営みとも結びつきながら文化的景観の一部として持続的に緑地が維持されてほしいものですが、特に都市部では多くの場合、それが難しくなっているのが現状です。
 それでも永きにわたり都市で維持されてきた緑地があるのならば、どのような営みや社会経済システムのもとで文化的景観の一部として維持されてきたのか(=景観の成立・継続条件)を明らかにすることで、次の時代の保全に対する示唆が得られるでしょう。また少し都市を離れ農村部に目を向ければ、永きにわたる営みが継続し、現在の景観を形作っている様子がみられる地域も多くあります。その背後にある人と土地の関わりあいの履歴を明らかにし、現代的な意義を考えることも、未来に向けて重要な研究課題です。
 いずれにせよ、文化的景観を研究するにあたっては、外形的な景観構造の理解に留まらず、それを支えている仕組みに目を向け、その合理性や現代的課題を議論することが有意義だと考えられます。
 

栃木県茂木町の谷津景観。斜面には萌芽更新で維持されているコナラ林が見える。伝統的な里山管理が地域的広がりをもって行われている例は、現代においては極めて希少である。このランドスケープの維持に向けては、その背後にある社会経済システムの持続性が鍵であり、文化的景観の観点からの調査が必要である。

 

都市部の文化的景観
Cultural landscapes in urban areas

  • 園芸や農業など都市の文化形成に関わる産業と関連した景観
  • 過去の灌漑用水路網など土地利用の履歴により規程される景観

農村の文化的景観
Cultural landscapes in rural areas

  • 伝統的農業や里山管理が継続しており社会生態的に特徴づけられる景観
  • 自然立地的な土地利用がみられ都市農村地域の土地利用整序の参考になり得る景観

技術革新
Technological Innovations
新たな技術がもたらす人と自然との新しい関係

 
 本研究室では、都市・自然環境・ランドスケープなどに関連し、既往の社会システムや人と自然との関係性を変革する可能性のある技術も研究対象としています。例えばロボットによる緑地管理や人工知能の自然物への実装などは、新たな対自然コミュニケーションを生み出し、またそのあり方についても本質的に考え直す契機となります。実装面での評価研究が基本ですので、情報工学や機械工学など、関連する異分野の皆さんとのコラボレーションを重視しています。
 

研究室のある建物(環境棟)に設置予定のFarmbot。アメリカのベンチャー企業が開発した100%オープンソースの菜園ロボット。菜園のような「人と自然との直接的関わり」が重視される領域で、ロボットはどのような新たな関わりを生み出すのか。研究室ではこれとは別に露地の家庭菜園も管理しており、両者の比較実験を予定している。
Farmbot公式ホームページより写真引用)

 

緑地管理に関わる技術について
Technologies for maintaining landscapes

  • ファームボット(家庭菜園ロボット)の実装課題と露地菜園との比較
  • 水耕栽培技術の経済性と社会経済的インパクトの評価

ICTやAI技術の応用について
Application of ICT/AI technologies

  • エシカル消費を促すためのブロックチェーンによる情報管理
  • 巨木などシンボル樹木とのコミュニケーション技術の実装

その他自然環境やサステイナビリティなどに関わる技術について
Other technologies related to nature and susteinability

  • 座鑑式庭園拝観時のマインドフルネスを体験する景観実験室の整備
  • 大気中からの飲料自給技術の都市部での実装課題と非常用飲料水確保の意義